TRPGシナリオのすゝめ 第二回-プレイヤーを裏切ってはいけない-

 

このコラムはふろんちあがTRPG(主にCoC)のシナリオを作る上で気づいたこと、注意することを連々と書き綴って行きます。あなたがシナリオを製作する時の参考になれば幸いです。
「TRPGシナリオのすゝめ」は本コラムを合わせて約10回を予定しており、執筆にあたりオライリー・ジャパン発行の『「レベルアップ」のゲームデザイン』を参考にしております。

 

シナリオテーマ

 シナリオを作るにはまず、そのシナリオの『テーマ』を考えましょう。これはどんなシナリオを組むかという漠然としたイメージを言葉にする作業です。「短時間でぱっと遊べる初心者向きのシナリオ」、「実際の事件を元にした調査探索もの」、あるいは「古代に忘れられた神が現代蘇る」といったような感じです。テーマはそのままシナリオがどんなものかをプレイヤーに伝える言葉になるでしょう。「裏テーマ」として話をすすめると見えてくる事実を用意しても構いません。大事な事は、あなたがシナリオを作る時にそのテーマからぶれないこと、そしてプレイヤーがそのテーマを理解し受け止められるように作ることです。そうでなければ売り文句が実際の品物と違う詐欺商法のように、プレイヤーへの裏切り行為となってしまいます。ギミックとしてトリックや嘘付きな登場人物を出すのとは全く別次元の話で、ゲーム外での裏切り行為はどんなに良いシナリオであったとしてもプレイヤーの反感を買うでしょう。

 また、TRPGのシナリオを考える時一つ大事なポイントとして、基盤となる世界観がルールブックや原作によって定義されています。RPG(ロールプレイングゲーム)とはその世界の登場人物として遊ぶゲームだという事を忘れないでください。別に原作原理主義者の正しさを言っているわけではありません。原理主義者と革新派の争いはどこにでもありますが、定義されている世界観を無視した設定はその世界観を求めているプレイヤーに対する裏切り行為になってしまうということです。大きく世界観を逸脱したシナリオを組むときは、そのことを明言することによってプレイヤーへの公正さを表しましょう。

プロットを組む

 どんなシナリオにするかの大体のイメージがテーマからつかめたら、その流れを幾つかのポイントに絞って仮組みしていきましょう。プロットを組む際には予めテンプレートを考えておくと良いでしょう。自分で一から考えても良いですが、自分のテーマに近いものから骨格を抜き出してテンプレート化しておくと作りやすくなります。

例えば…
一本道タイプ:順に話を追っていくもの。途中の障害が超えられないと話が進まなくなるため、道中に障害を超えるためのヒントやアイテムを配置しておく必要がある。ハッピーエンドが前提で、SW等で短いシナリオやお約束どおりの王道ストーリーを展開するのに向いている。
ルート選択型:プレイヤーの選択によって話の流れが変化するもの。周回プレイを前提としているコンシューマーにはよくあるパターンだが、単発が基本のTRPGシナリオにはあまり向いていない。難易度の変化とエンディング分岐程度にしておくと良いだろう。
ディフェンス型:バッドエンドとなる条件を定めておき、その条件さえクリアできればどんな方法であれクリアとなるもの。一本道より自由度が高く、バッドエンドが主軸となる。

次のように行動可能なエリアと幾つかのクエストを組み合わせた構築法もある。
オープンワールド&サンドボックス型:定められた攻略手順を持たず、広大な世界を自由に探索する。情報を集めて対抗策を考えるCoCのシナリオ構築に向いており、公式シナリオ『悪霊の家』はその最たる例。
エリア&サンドボックス型:ある一定の攻略手順をもつ限られたエリア内で物語が完結する。アイテムや行動範囲を制限することで上記をもう少し短時間でプレイしやすくしたもの。
クローズドサークル&リドル型:いわゆる脱出ゲームや密室推理ものを構築する時に向いている。マップ上にヒントやイベントを配置しておくことで遊びやすさやプレイ時間を調整しやすい。

イベントを配置する

 プロットの要所では各々シナリオを進めるための大切なポイントを配置していきましょう。アイテム、ヒント、キャラクター、事件がどのタイミングでおき、どのように進展するのかをここで定めます。プロット段階では難易度のことは考えなくて良いので、ここではどう配置すればシナリオが面白くなるかだけを考えます。起承転結と言った基本的な物語構造からハリウッド式の脚本術などの考え方が役立つでしょう。基本的な流れとしては、プレイヤーの視点で「理解」-「進行」-「障害」-「達成」が問題なく進められるようにします。「理解」とは世界観やルール、このシナリオでは何をすればよいのかを理解する段階、「進行」は次のイベントまでの流れ、「障害」は敵、あるいは問題を解決する行為、「達成」は障害を超えたことにより与えられるプレイヤーへのカタルシスとなります。ゲームである以上、プレイヤーは常に勝利、達成、クリアと言ったカタルシスを求めており、その比重はとても大きいものです。かりに「障害」の先に「達成」が無ければ、それはプレイヤーへの裏切り行為と同義となります。NPCを助けるための障害を超えた先にあるのがNPCの悲劇であってはなりません。これはストーリーでも非常に大きな要因となりえるため、次回「ストーリーについて」で詳しい話を書くこととします。

テストプレイング-完成

 プロットが完成した時点で、TRPGのシナリオはプレイ可能となります。もちろん重厚なストーリー展開はできないでしょうが、イメージが頭にあれば、少なくともシナリオ作者であればGMとして展開を進めていくことができるはずです。特に、ディフェンス型やサンドボックス型のプロット構造であればストーリー無しでも展開が可能ですから、どこで、だれが、なにを、どうすれば話が進むのかをプロットで定義していれば、あとは世界観とキャラクター、そしてプレイヤーだけで十分シナリオが展開します。拙作であればCoCシナリオ『おキツネさま』は世界観とキャラクター、ハンドアウトと特定のイベントを各所に配置しているだけのもので、ストーリーは前日譚しか存在しません。こういった物語が後からついてくるタイプのシナリオのほうがTRPGとの親和性が高く、プレイヤー主軸のストーリーが展開されます。どうしても日本では「RPG=物語を読み進める」といった印象が強いですが、敢えてシナリオ進行にストーリーを用意しないという選択肢も考えてみてください。人間というのはないなら無いで自分で想像するものですから。(難易度もGMがあるていど調整するでしょうしね。)

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