TRPGシナリオのすゝめ 第一回-ゲームの定義-

このコラムはふろんちあがTRPG(主にCoC)のシナリオを作る上で気づいたこと、注意することを連々と書き綴って行きます。あなたがシナリオを製作する時の参考になれば幸いです。
「TRPGシナリオのすゝめ」は本コラムを合わせて約10回を予定しており、執筆にあたりオライリー・ジャパン発行の『「レベルアップ」のゲームデザイン』を参考にしております。

「ゲーム」とは何か?

 あなたは「ゲーム」の定義を答えよ、と問われた場合になにを思い浮かべますか?据え置きゲーム、携帯ゲーム、あるいはじゃんけんやトランプと言った遊びでしょうか?学術的なコミュニティでは「ゲームとは何か?」について様々な定義があるそうです。「ゲームとは、現実の部分的集合を主観的に現す、閉じた公式システムである必要がある」と論じた学者もいれば、「ゲームとは対立するプレイヤーが必要だ。」と論ずる学者もいるようです。ちょっと難解な言い回しでわかりにくいですね。

 ここでは先の例の中でもっともわかりやすい「トランプ」を例にゲームを定義してみましょう。トランプとは4つのスーツがそれぞれ1から13の数値をもつ52枚のカードに+α(ジョーカー)を加えたカードの集合体です。さて、この「トランプ」だけでは「ゲーム」とは言えず、ただのカードの集合体にすぎません。これに最低一人のプレイヤーとルールを組み合わせたものが一般的に「ゲーム」と言われる遊びになります。さらに、「トランプ」はかならずしもカードである必要はありません。Windowsパソコンをお持ちの方であればスタートメニューに存在する「ソリティア」をよくご存知だと思います。そこにあるのはカードを模したイラストとルールを制御するプログラムだけです。つまり、ゲームと定義するのに必要なものは「プレイヤー」と「ルール」だけです。ルールにはできること、できないこと、終了条件の三つが必要です。

「TRPG」とは何か?

 次はTRPGについて考えてみましょう。いわゆるRPG(ロールプレイングゲーム)の起源がこの紙とペンを用いたD&DのようなRPGですが、日本では昨今、コンシューマーゲームのRPGというジャンルと区別する形でホビー・ジャパンの提唱したTRPG(テーブルトークアールピージー)という呼ばれ方をしています。ちなみに海外ではテーブルトップRPG、または単にRPGといいます。この遊びにはシステムとして最低一つのルールブック、最低一人のゲームマスター、そして数人のプレイヤーが必要です。トランプゲームでもいわゆる親と子でわかれるゲーム(ブラックジャックやポーカー等)がありますが、それらと大きく違うところは実際のルール運用がゲームマスターに一任されているところです。ルールブックはシステムに過ぎず、仮にルールブックで「できない」と定義されていることですら、ゲームマスターの裁量で「できる」ことに代わるのです。もちろん、他のプレイヤーの承諾があったほうが揉める心配が無く良いでしょう。

「TRPGにおけるシナリオ」とは何か?

 ここで本コラムの主題であるシナリオに視点を移しましょう。一般的に言うシナリオとは、物語であり、話の流れ、道筋を表すものです。それは本で言う小説であり、映画で言う脚本であり、ゲームにおけるストーリーだと考えることでしょう。ですが、TRPGにおけるシナリオ製作とはそういったいわゆる「ライター」の仕事とは一線を画す部分があります。それはゲームのシナリオライターが普通担当しない部分を定義していることです。仮に、シナリオが「ストーリー」だけだったとしましょう。TRPGにはルールブックというシステム、ゲームマスターという審判が存在し、実際にゲームを遊ぶプレイヤーたちがいます。ここにストーリーがあればTRPGを遊ぶことができるかと言われれば、できないと断言することができます。それは何故でしょうか?

 その答えは、ストーリーの中に「ゲームデザイン」が含まれていないからです。もちろん、多くのルールブックではこのゲームデザインがシステム内に組み込まれています。クトゥルフ神話TRPGで言うSAN値の定義やステータス、戦闘ルールなどがそうですね。ですがそれはトランプゲームで言うトランプというカードの集合体に過ぎず、ストーリーのどの段階でどの判定を行うかという部分はシナリオ内に組み込まなければなりません。これこそが「TRPGにおけるシナリオ」と他の「シナリオ」との大きな違いです。ここではわかりやすく「シナリオ」≠「ストーリー」としておきましょう。

「ゲームデザイン」とは何か?

 ゲームデザインとはゲームを楽しく、バランスの良い遊びにするためのアイディアやセンスそのもの。あなたがTRPGのシナリオを書こうとする時、あなたは物語を書くのではなく、ゲームをデザインしなくてはなりません。良いゲームデザインとは、遊びやすく、ルールが明確で、魅力的なキャラクターと、手応えのある障害、その先に勝利の達成感、あるいは敗北の苦渋を味わえるような絶妙なバランスの上に成り立っています。ストーリーとはその一連の流れに過ぎません。最近はストーリーを主軸においた名作ゲームも多数ありますが、昔はストーリーがおまけ程度の名作ゲームの方が多かった印象です。有名なところでは「スーパーマリオブラザーズ」がそうでしょう。

 ストーリーにセンスや文才が必要なのは確かですが、ゲームデザインのセンスとは、あなたがいかに「良いゲーム、悪いゲームを知っているか」が重要です。悪いゲームとはゲームの難易度が高すぎたり簡単すぎたり、キャラクターに魅力がなく言ってることがめちゃくちゃで、唐突にわけのわからない展開がやってきてプレイヤーに意味不明な選択を与えるようなゲームを言います。クソゲーレビューを読めば反面教師として大いに参考になるでしょう。なにを持って良いと思うかは人それぞれですから、良いゲームとは少なくとも悪いゲームではないということです。悪い面を補って余りある良い面があればそれを良いゲームだと思う人もいるでしょう。大事なのはあなたが「良い」と思えるゲームにすることです。TRPGのシナリオを作るというのは、ゲームを作るということと大きな違いはありません。

 あなたがシナリオを書くにあたって、「文才がない」と思わないでください。あなたに必要なのはあなたが作ったシナリオをあなたが「楽しい」と思えるかどうかです。あなたが楽しいと思えないものを誰かが楽しめるはずがありません。そして多くのプレイヤーに楽しんでもらえるように、あなたのアイディアを沢山書き出してみてください。その中で本当に楽しいと思えるものをシナリオに組み込んでいくのです。難しく考える必要はありません。あなたが楽しいと思ったゲームや映画を参考に、その感動をプレイヤーに体感してもらえるなアイディアを形にしていけば良いのです。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。少しでも参考になればツイッターにて感想をいただければ幸いです。
次回はシナリオを作成するにあたり、用意すべきパーツをそれぞれ解説していきたいと思います。

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