ツイッターのTRPG界隈で話題に上がっているTRPGシナリオの電子書籍販売について、
筆者もシナリオを電子書籍で販売している身の上として真剣に考えてみたい。
本コラムでは一般に販売されているTRPGのシナリオを作成し、公開する行為。
また、営利目的のためにそれら販売する行為の是非について考察します。
主題考察のためにはまず、知的財産権について正しく理解しなければなりません。
(1)知的財産権とは (2)知的財産権の種類 また、特許権、実用新案権、意匠権、商標権及び育成者権については、客観的内容を同じくするものに対して排他的に支配できる「絶対的独占権」といわれています。一方、著作権、回路配置利用権、商号及び不正競争法上の利益については、他人が独自に創作したものには及ばない「相対的独占権」といわれています。 特許庁WEBサイトより引用 |
上記のうち、主にTRPGに関わる知的財産権は、著作権・特許権・商標権・不正競争法です。なお、著作権・不正競争法以外の権利は各国における認可制なので個々に考慮する必要があります。
TRPGの著作権について
TRPGの知的財産はタイトル、印刷物、ルール、キャラクター、デザイン、データベース、記載文章に分類することができます。これらのうち著作物として認められるのはゲームブックそのものである「印刷物」。次に「キャラクター」「デザイン」「文章」これらは各々の作者が著作者として認められます。また、版元と各著者全員が共著者となることができます。
「タイトル」「ルール」「データベース」はアイディアや情報の集合体にあたるため、著作権は認められません。
※フォントやロゴはデザインに該当する
つまり、TRPGの版元が持っている著作権とは「印刷物」「キャラクター」「デザイン」「文章」です。この著作権によってTRPGの版元は、以下の著作人格権と著作財産権を持ちます。
著作人格権:公表する権利・著者を名乗る権利・著作物を改変されない権利
著作財産権:複製する権利、上映・上演する権利、放送する権利、内容を話す権利、展示する権利、販売・貸与・譲渡する権利、翻訳・改変する権利、二次創作の著作物を利用する権利
参考:著作権情報センター
商標について
商業を営む場合、次に重視されるのが名称です。同名の類似商品が販売されないよう排他的独占権を認めるものが商標だからです。主に社名、商品名とともにロゴが商標として扱われます。企業がブランドを保持するために取得することが多い認可登録制の権利です。
参考:特許庁-商標とは
特許権について
発明という知的財産を保護するための権利が特許権である。が、基本的にスポーツやゲームの遊び方などのように人が作ったルールそのもののアイデアなどは特許として認められていません。一方でTCGとTRPGを融合させた遊びのアイディアが特許出願と公開されており、物によっては認められるのかもしれません。もちろん特許の及ぶ範囲には疑問が残りますが。
不正競争防止法について
他の知的財産権とは色合いが違いますが、要は営利企業間の正常な市場競争を守るためのルールであり、技術を盗んだり、類似物の販売や同名、類似する商品名を使って他者研究や利益を阻害し、不正な手段で利益を上げる行為を防止する法です。商売をするためのルールと考えてください。
本題
さて、ここまで読み終えた方は著作権や知的財産権について大変真面目に考える理由がある方と見受けられます。ここからは本題であるTRPGのシナリオを作成し、公開する行為。また、営利目的のためにそれら販売する行為の是非について筆者の見解を記します。
他者の権利を阻害しない限り、全くの合法である。
それでは、権利者の許諾が無いことが前提に、権利を阻害しないTRPGのシナリオ作成におけるルールを以下に記載します。
1.著作権に配慮する
版元のデザイン・シナリオを複製して掲載してはならない。また、版元と同名のデザイン・シナリオを使う場合は、その違いが明確であること。
版元の文章、データを複製して掲載してはならない。シナリオ中に版元のデータを参照する必要性がある場合は、参照先を明記するまたは正しい引用を行うこと。
版元のキャラクター画を複製して掲載してはならない。また、版元と出典を同じくするキャラクターを使う場合は、出典先の著作権の有効性と許諾範囲を確認すること。
版元のキャラクターを表現する文章を複製して掲載してはならない。また、版元のキャラクターと表現を同じくする具体的文章を使ってはならない。
版元のキャラクターを表現する複数の具体的な特性を同一とする画像または文章を改変して掲載してはならない。
著作物の複製とは、既存の著作物に依存し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうものと解すべきである 「ポパイ」著作権侵害第3事件:最高裁判例より引用 |
補足
キャラクターの著作権に関しては近年認められているパブリシティ権も考慮すると、
専門家以外がその明確な線引きを行うことは、著作権者ですら難しいでしょう。
「ポパイ」著作権侵害第3事件の最高裁判例を前提とすると、キャラクターという抽象的概念は著作権を有しません。
一方でキャラクターのデザイン及び具体的文章表現においては著作権が認められます。
著作権が認められる場合、キャラクターの表現を翻案する行為は著作人格権の侵害にあたります。
(このあたりが二次創作作品の難しいところだと言えます。)
安全な手段は「著作権のないキャラクターを自己表現する」「著作権者の許諾を得る」のどちらかです。
そのどちらもが難しい場合、参照先を明記するに留めることが賢明でしょう。
2.商標及び不正競争防止法に配慮する
商標登録されている名称・ロゴは使ってはならない。
商標登録されていない場合であっても、版元の商品名・ロゴ・及びデザインを酷似させ、あたかも版元の商品であるかのような振る舞い、販売を行わない。オマージュ、パロディの場合は非公式であることを明記する。
※クトゥルフ神話TRPGの場合、『クトゥルフの呼び声』:ホビージャパン、『ゆるるふ神話cthulhu mythos』:アークライト、『クトゥルフ神話RPG』(審査中)が商標として存在する。また、海外では『Call of Cthulhu』がケイオシアムの商標として登録されている。
3.特許として認められているアイディアを使用しない。
(認められている特許がほとんど存在しないため、あまり考えなくて良い)
4.二次創作であることを認める場合、著作者の二次創作の利用を認める。
(あまり考えなくても良い)
仮にあなたが作ったシナリオが上記のルールを守っているならば、「あなたの著作物」として認められるべきものであり、著作権によって保護される対象となります。
つまり、あなたには以下の権利があります。
公表する権利
著者を名乗る権利
著作物を改変されない権利
複製する権利
上映・上演する権利
放送する権利
内容を話す権利
展示する権利
販売・貸与・譲渡する権利
翻訳・改変する権利
二次創作の著作物を利用する権利
即ち、シナリオを公開する行為、営利目的のためにそれらを販売する行為は著作権によって認められるということです。
一般的な同人誌は公式のキャラクターを漫画に登場させるなど、明らかに著作権に抵触する作品ですが、少なくともTRPGにおける同人シナリオは著作権を侵害せずに作品として作り上げることができます。
司法でも弁護士でもない一般人の知見ではありますが、少なくとも一部のシナリオ作品を除き、多くの同人シナリオは著作物として認められるべき作品群でしょう。
そういった違いを考慮せず、違法な同人誌と合法な同人誌を同列に扱い、あたかも電子書籍販売が同人界隈の悪徳行為であるかのような風評には激しい憤りを覚えざるを得ません。
良識を持って独自のキャラクター、独自の物語、独自のデザインによって一冊の本を仕上げ、低原価低価格で多くの人の手に渡る電子媒介を通じ、成果に対して正当な対価を求める行為。
それを悪だと断ずる人がいるのであれば、私は善だと断じます。
私は間違っているかもしれません。けれど声を上げずにはいられません。
なぜなら、権利は行使しなければその効果を発揮できず、権利を持っているのは他ならぬあなた方クリエイターだからです。
私は私の権利を守ります。
あなたもあなたの権利を守るべきです。
2019/5/18 1.著作権に配慮するに「キャラクター」に関する説明を追記
Writer:ふろんちあ
Twitter:frontier444
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