クトゥルフ神話TRPGの現代日本シナリオによくある『目が覚めると脱出ゲームがはじまる』シナリオの話
あまりにも氾濫しすぎていて、幾つかシナリオを経験した継続探索者ともなれば、「またこれか…」と思わずPCが呟いてしまうほどです。
ではこういった形のシナリオを作ってはいけないのか?というと、そうでもありません。
現代日本のさまざまな制約や、強力な武器の持ち込みを制限しつつ、決まった部屋で起きるギミックを解き明かして脱出する。
これらの流れは全て、PCの行動をクローズド(制限)させてマスタリングの難易度を容易くし、
長引きがちなCoCのセッションを短い時間で終わらせることが出来るというメリットがあります。
逆にプレイヤーは様々な制限によって定まった行動以外を取ることが出来ません。
つまり、クローズドにする利点のほとんどはシナリオ作者ならびにKPの都合によるところが大きいのです。
このようなクローズドシナリオを作るときに注意するべき点は、プレイヤーにその不都合を感じさせない配慮にあります。
本コラムではその点に注目して、よくある『脱出ゲーム』を『クトゥルフ神話TRPG』にする方法を紹介しましょう。
第一章 『私達が一体何をした?』
『貴方たちは、見知らぬ部屋で目を覚ます。』
おそらく導入で最もよく聞くフレーズですが、この一文を書く前に少しプレイヤーの気持ちになって考えてみて下さい。
クトゥルフ神話TRPGは恐怖によって正気を削りながらも悍ましい神話的脅威に立ち向かうゲームです。
探索者たる彼らは間違いなくこれからバケモノに遭遇したり、死体を見つけたり、よくわからない謎解きをさせられるのです。
彼らが一体どんな悪いことしたというのでしょう?
もしかしたら前世で猫の尻尾を踏んだり、犬に眉毛を書くような悪逆非道な連中だったかもしれませんが、少なくともおかしな部屋に拉致監禁されるような悪いことをしたとは思えません。たまたま運が悪かっただけなのでしょうか?いいえ、作者がそんなことに思いを巡らせなかっただけなのです。
彼らには理由がないのです。
おかしな部屋を探索する理由もない。
そんな部屋に閉じ込められる理由も無い。
見知らぬ他人に自己紹介させられる理由もない。
仮に運悪く邪神に目をつけられただけと言うならもはやキャラクターを作ること自体が悲劇です。
導入に必要なのは理由と目的です。
それすらもない導入がプレイヤーに不満を持たれるのは、当たり前のことです。
どうか彼ら悲運な探索者が悍ましいクローズドな世界に閉じ込められる理由を用意してあげて下さい。
彼らでなければならない理由を、彼らにわかるように。
例えば最初の導入にほんの一文を付け足してみましょう。
「貴方たちはある事件を追って、ある組織を調査していた。そんなある日、後ろから何者かに襲われる。」
「そして、貴方たちは見知らぬ部屋で目を覚ます。」
ちょっとでもCoCに慣れたプレイヤーはこのように考えるでしょう。
“間違いなくこれはある組織による拉致監禁だ。おそらく回りにいる人間も被害者なのだろう。
彼らは一体何を目的としているのか…ここはどこだ?彼らの目的は?とにかく、ここを脱出しなければ…”
ほら、ちょっとワクワクしてきませんか?
あるいはこんなハンドアウトを用意してみましょう。
『探索者はなにか芸術的な才能を持っている。技能は高くなくてもかまわない。』
そして導入は次のようになります。
「貴方たちはここ最近、連日不可思議な夢を見ている。奇妙な黄色い衣の演者たちの舞う演劇の夢。観客は自分を含めてほんの数人…」
「そんなある日、貴方たちは見知らぬ部屋で目を覚ます。」
後者の場合、キーとなるのは探索者同士の共通点です。
芸術の才能があり、同じ夢を見続け、おそらくは自分と同じ観客だったであろう人物たち。
これは夢の続きか?それとも現実なのか?あの奇妙な演劇は一体なんなのか?
探索者は同じ好奇心と恐怖心を持ちながら探索を始めるでしょう。
黄色いローブに身を包みながら…
如何でしょう?ほんの一文二文で十分ストーリーが見えてきませんか?
ここで重要なのはプレイヤーが意思を持って動き始めることです。
少しラヴクラフト的な演出を加えると探索者の興味心はグっと高まるでしょう。
なぜかって?彼らは『クトゥルフ神話TRPG』を遊ぶために準備してきたのですから!
第二章 『答えを用意する親切な黒幕』
脱出ゲームは謎解きゲームです。
謎解きゲームである以上、挑戦しがいのある謎があり、当然答えが用意されています。
だがちょっとまってほしい。我々が遊ぶのはクトゥルフ神話TRPGです。
例え黒幕が暇を持て余したニャルラトホテプだったとしても、なにゆえ探索者を拉致監禁してクイズを始めるというのでしょう?
別に謎解きを用意するのが悪いとは言いませんが、せめて答えを黒幕が用意するのはやめましょう。
彼らにはちゃんと「彼らをここに連れ込んだ理由」があるはずです。
あとで生贄にするためとか、アイホートのひなを埋め込むためとか、未完成の戯曲を完成させるためとか、なんかこう碌でもない目的です。
そんな彼らがどんなうっかりで彼らが脱出するルートを用意するというのでしょうか?
だからといって、助かるルートが存在しないのではただのクソゲーです。
脱出するルートを用意するのは、プレイヤーの協力者か過去の犠牲者たちであるべきです。
例えば遺体の傍にある手記に脱出のヒントとともにこんなことが書かれていたらどうでしょうか?
「俺は失敗した。お前たちはそうなるな。願わくばここを脱出して、俺の帰りを待つ妻と娘に愛していると伝えてほしい。」
このような、過去の犠牲者がその身を持って残した遺書や手記は効果的です。
なぜかって?プレイヤーは今、『クトゥルフ神話TRPG』を遊んでいるからです!
第三章 『鍵のかかった扉』
これはちょっと嫌味に聞こえるかもしれませんがよく聞いてください。
あなたが鍵のかかった扉を用意する前に考えるべきことです。
『その鍵の持ち主は何故鍵をかけたんだ?その鍵は今どこにあるんだ?』
なにを当然のことを書いてるのかと思うかもしれません。
ですが、シナリオを作るときにありがちな思考はこちらです。
『他の部屋を探索してからこの部屋に入れるようにしよう。』
またもや、作者都合、KP都合の話です。
このような作り方をしていると探索ルートのことばかり頭に行ってごく当たり前のことが抜け落ちてしまいます。
その極端な例が不思議な力で開かない扉です。
私が見た典型的な意味不明な扉について話しましょう。
鍵のかかった扉の鍵を、他の部屋で見つけました。
鍵のかかった扉を開けると、主人の遺体が見つかりました。
どう考えても鍵をかけた人物による他殺です。
だがKPに確認した所、自殺だか衰弱死らしいのです。
私は「誰が外に鍵を持ち出したんだ?」と疑問に思いました。
(そこが気になって調べたのですが、シナリオには存在せず特に理由は無かったらしい)
このような作りは「鍵を用意してあげよう」という優しさから生まれたのでしょう。
プレイヤーフレンドリーかも知れませんが、謎が間違った方向に深まってしまうばかりです。
せめて、内鍵と外鍵の区別ぐらいはしておいてほしい。
なんなら鍵なんてシナリオ上に用意しなくても構いません。
誰だって家に鍵をかけるのは家からしばらく離れるためでしょう?
大丈夫、プレイヤーは鍵なんて無くっても他の方法でいくらでも鍵のかかった扉を開けることが出来ます。
なぜかって?『クトゥルフ神話TRPG』には鍵を開ける手段が豊富に存在するからです!
悪霊の家というシナリオでは、このことをしつこいぐらい教えてくれますよ!
第四章 『戦闘』
クトゥルフの戦闘が苦手な人は多いでしょう。
とにかく判定に時間はかかるし、そもそも戦闘技能を持たないプレイヤーも多い。
ほとんどの場合攻撃力は武器に依存しているから、強力な武器さえあれば技能値なんて二の次だったりします。
だと言うのにプレイヤーが武器を手に入れる手段は制限されている。(クローズドの中にガンモールでもあれば別ですが)
こんな状態で強制的な戦闘を用意するなんて鬼畜なシナリオ作者と言われても仕方ないでしょう。
だがちょっとまってほしい。
彼らは別にモンスターと戦いに来たわけではないはずです。
もちろん、モンスターを用意し、番人とするのは効果的な手法です。
彼らには二つの選択肢を用意すべきでしょう。
一つ目は勇気と知恵をもって戦い、勝利をもぎ取る方法。
二つ目はそもそも戦わずに目的を達成する方法。
CoCに登場させやすい神話生物の多くは頭の悪い使い魔的存在です。
彼らは神に奉仕するためか、魔術によって従属させられています。
あるいは、ミ=ゴや蛇人間、カルト教団の中でも頭は悪いが力は強いやつでもいいでしょう。
そういった番人役を神格級の神話生物や、『頭のいい奴』にするのはあまり良くありません。
そういうのは黒幕にするべきだし、何より彼らもそこまで暇ではない。
まぁヒュプノスやタウィル・アト=ウムルのような番人的神格もいるわけですが、彼らはなんか大事なあれを守ってるんです。
さて、番人の頭さえ悪ければ、探索者は知恵で戦うことが出来ます。
例えば『その部屋を守れ』と命令されているショゴスを普通に退治するのは困難ですが、
別に戦わずに部屋を燃やし、ショゴスが焼け死んでから入ればいいわけです。
その結果、せっかく戦闘データを用意したのに戦闘が発生しなかったとしても何も問題はありません。
そう、これは『クトゥルフ神話TRPG』なのですから!
終章 『エンディング』
バッドエンド、ノーマルエンド、トゥルーエンドという区分けはシナリオに書かなくても構いません。
もちろん、ルートや選択肢によってエンディングが別れるというのはゲームの作りとしてよくある形でしょう。
私も幾つかのシナリオでエンディング分岐を用意しています。
ですが、警官の探索者と犯罪者の探索者のハッピーは違うということを忘れてはいけません。
悲劇のヒロインを助け出せなかったとしても、赤の他人が死のうがどうでもいい人間もたくさんいるものです。
ただ極端がすぎると多種多様な結末を迎えやすいTRPGとして融通が効かなくなるという事を覚えておいて下さい。
TRPGのエンディングはPCたちが行動した結果そのものであり、それによって物語が完成するということです。
まぁ何がいいたいかというと、ヒロインを助けられなかったと言って世界を崩壊させるのはやめましょう。
結果はありのまま、ヒロインが死んだ。それだけで十分です。
(そういう凝ったストーリーなら話は別ですが、短時間クローズドの話です)
エンディングに必要なものは、結果と報酬、そして探索者がやったことの後始末だけです。
あるいはまぁ、死んだ探索者を弔ってやることぐらいでしょう。
以上、勢いに任せて書いてしまった駄文ですが、
貴方のクローズドシナリオ作成の一助となれれば幸いです。
ふろんちあ
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